『中国化する日本』 [本]
題名には少しびっくりするが(それが狙い?)、歴史の授業が苦手だった自分には、断片的な歴史の知識が読むことによってある塊になるようで、興味深かった。
中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 (文春文庫)
- 作者: 與那覇 潤
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/04/10
- メディア: 文庫
この本で言っている「中国化」とは、
「日本社会のあり方が中国社会のあり方に似てくること」
ということだそうだ。現状の中華人民共和国の体制に取り込まれる、とかいう話ではない。
中国は宋の時代に身分制世襲制が撤廃され、皇帝直轄の支配体制になった。
科挙による人材登用を行い、機会の平等が実現された。(男女の平等はないが)
しかし結果の平等というものはなく、競争社会となる。
「宋銭」という単語だけは授業で習ったのを今でも記憶しているが、宋という時代がこのような自由競争の時代の始まりであったことは、今回知った。
元の時代も自由な市場だったらしいが、通貨としての銀の不足が元朝衰退の一因らしい。貨幣として紙幣の信任が十分にはなかったようだ。
その後の南アメリカでの銀鉱山の発見、「ポトシ銀山」、これも以前TVで立花隆氏が画期的な出来事、といっていたのを記憶するが、どう歴史、特にヨーロッパの繁栄と結びついて行くかが、この本の記述でよく判ったような気がする。著者は「繁栄」にずいぶん厳しい記述をされているが、東アジアの人間としては、ヨーロッパにそう引け目を感じなくても良いのかなと思えてよかった。
また、明の時代のこととして、永楽帝による海外進出について触発されwikipediaを調べてみると、
「このとき永楽帝を引き継いで、鄭和のようにずっと積極的に海外へ進出していれば、ヨーロッパのアジア・アフリカ支配も実現しなかっただろうと多くの歴史家は推測する。」
必ずしもヨーロッパが優れていたのではないことは新たな認識として持てた。
日本も何度か中国化しそうになるが、そのたびもとにもどってしまう。
平清盛、後醍醐天皇、足利義満、明治維新、第二次大戦後、
やはり日本的にはそこそこやってゆける方を選んでしまうのだろうか。
ケインズについてはかなり手厳しい記述ではあるが、公共投資に安易に頼る体制への批判として捕らえればよいのだろうか。すべて自由に任せるだけでは、資本主義が立ち行かない場面を迎そうなときに必要なこと、と理解している。
シャンパーニュをもっと飲めばよかった、と死ぬ間際に言ったとか言わないとかいうケインズは好きなのだ。
実感としては日本的な「イエ」「ムラ」を「カイシャ」に変換してうまくやってきたが、そのカイシャがその役割を果たすのが難しくなってきているのであるから、中国化はさけられないような気はする。その際にどうやって民主主義と福祉面を考えていくかが問題だろう。ベーシックインカムについても記述があるが、著者はどちらかというとその制度の負の面を危惧しているようだ。
経済では非常に重要な関係にあるのに、中国の人とはほんの少ししか関わりがなかったが、こうした知識は知っておいた方がよいと思った。歴史文化を学ぶ必要を感じたし、何よりも興味を持って読めたのは良かった。
2015-08-02 14:05
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